信越化学グループと気候変動
信越化学グループは事業活動を通じて地球全体の温室効果ガスの排出削減に貢献することで、気候変動に対処しています。
気候変動への対処の体制
当社グループでは、ESG推進委員会が気候変動への取り組みを事業部門、グループ全体と一体となり進めています。
ESG推進委員会はコーポレートガバナンスの体制上、「重要な課題ごとの委員会」の一つとして位置づけられています。委員会は社長を委員長とし、信越化学の取締役や部門長、グループ会社のESG担当者など約50名で構成されています。当社グループの企業活動のあらゆる側面において、全社レベルで効果的かつ適切な方法でESG活動を推進することを役割としています。
ESG推進委員会では、2019年度に気候変動に関する分科会を8回開催しました。また、2019年11月に開催した委員会の全体会議で、気候変動への対処について議論しました。さらに、毎年、業務執行の検討、決定を行う常務委員会で、当社グループの気候変動への取り組みについて報告し、活動内容を決定しています。
気候変動への対処の戦略
当社グループは、環境負荷を抑えながら、社会と生活の発展を目指します。そのために、当社の製品と技術により効率を極めていくことに貢献します。具体的な戦略と実行の方法は以下の通りです。
戦略
- 1)徹底した生産効率化により、温室効果ガス排出量の生産量原単位での削減
- 2)環境貢献製品の開発、製造、供給。顧客や社会の効率化に貢献
- 3)再生可能エネルギーの導入促進
- 4)物流の合理化の促進
1)徹底した生産効率化により、温室効果ガス排出量の生産量原単位での削減
①効率的な生産活動の推進
「重要な課題ごとの委員会」の一つであるG委員会が効率的な生産活動を推進し、省エネルギーや温室効果ガスの排出削減に取り組んでいます。G委員会は、戦略の実施の進捗状況とその結果を管理し、毎年2回、常務委員会に活動成果と具体的な取り組みを報告しています。
当社グループは温室効果ガス排出量の⽣産量原単位での削減のために、⻑年にわたり⽣産技術の向上に継続的に取り組んでいます。生産効率をさらに高めるために常に新しい生産技術の実用化に挑戦し実績を積み重ねています。
G委員会の取り組み事例
- 1. エネルギーおよび原材料の使用を削減する計画の立案と実施
- 2. 発生する温室効果ガスの量を削減する計画の立案と実施
- 3. 生産性を高めるための計画の立案と実施
②設備投資による温室効果ガス削減
高効率ガスタービンを新規導入しています。また、設備投資の計画立案において、温室効果ガス削減効果を必須の検討課題としています。投資の提案の段階で温室効果ガス排出の削減量を意識することで、経営の重要課題であることをそれぞれが理解することに繋がっています。
2)環境貢献製品の開発、製造、供給。顧客や社会の効率化に貢献
開発部門、製造部門、営業部門が三位一体となり、環境に貢献する製品の開発、生産、供給を続けています。
当社グループは、温室効果ガス排出量の削減に貢献する多岐にわたる製品を有しています。顧客のニーズに合った製品開発の行う役割は、各研究所が担っています。研究所は早期に新製品を開発する力を有しており、これが当社グループの事業の拡大に貢献しています。
気候変動の緩和に貢献している製品 | |
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製品 | 貢献の内容 |
塩化ビニル樹脂 | 長期間利用できる塩ビ管、省エネルギーに貢献する樹脂窓 |
シリコーン | 太陽電池のモジュールの封止材、車の燃費を高めることに貢献するエコタイヤ用材料 |
半導体シリコン | 最終製品に搭載されている半導体デバイスはエネルギーの効率的な利用に貢献。大幅な省電力化を可能にしたインバーターなどの電子デバイス |
レア・アースマグネット | ハイブリッド車や電気自動車、燃料電池車の駆動モーターをはじめ、車の電動化と省エネルギー、さらに安全の向上に貢献する各種モーター。省エネルギー型エアコンのコンプレッサーモーター、風力発電機の高効率モーター |
LED封止材料 | 省エネルギーで長寿命のLEDの光モジュールの主要部材 |
3)再生可能エネルギーの導入促進
再生可能エネルギーの導入により、購入電力の削減に取り組んでいます。これは、スコープ2排出量の削減にも寄与します。
再生可能エネルギーの導入例 | |
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製品 | 貢献の内容 |
太陽光パネルの設置 | 信越半導体 白河で、建屋の屋上に設置(2020年7月完成予定) 信越化学 群馬で、建屋の屋上に設置を計画 |
4)物流における温室効果ガス排出量の削減
製品輸送時の温室効果ガスの削減を進めています。これは、温室効果ガスのスコープ3排出量の削減に寄与します。
物流の合理化の例 | |
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合理化例 | 削減に寄与しているスコープ3排出量のカテゴリー |
メタノール輸送におけるモーダルシフト* (タンクローリー→鉄道) |
カテゴリー4「製品の輸送時による排出」 |
シリコンウエハー輸送におけるモーダルシフト (航空機→船舶) |
カテゴリー4「製品の輸送時による排出」 |
ウエハーケースの再利用促進 | カテゴリー5「廃棄物の処理に伴う排出」 |
- * モーダルシフト
トラックなどの環境負荷の高い貨物輸送を、環境負荷の小さい鉄道や船舶に転換すること。
気候変動が当社グループの事業活動に与えるリスクと機会
当社グループでは、リスクマネジメント委員会が気候変動によるリスクも含め事業リスクを統括管理しています。常務取締役が委員長を務め、信越化学の取締役や部門長など、約20名で構成されています。
リスクマネジメント委員会では、当社グループが事業活動を行う中で考えられる包括的リスクを、リスク管理規程で定めています。リスク管理規程では長期的な視点で具体的なリスクやリスク管理の体制、発生したリスクへの対応について定めています。気候変動を含めたリスク管理で重要な事項については、リスクマネジメント委員会が取締役会や常務委員会、監査役会へ報告しています。
当社グループは、気候変動が当社グループの事業活動に与えるリスクと機会の特定、分析にあたり、気温が21世紀末に在よりも2度上昇する気候変動シナリオ、および4度上昇する気候変動シナリオを採用しました。現在、特定、分析を進めています。
当社グループに影響を与えると考えられる要因は以下の通りです。
1. 温室効果ガス排出量を削減するための厳しい規制が導入される可能性
2. 環境税やその他の新しい税が導入される可能性
3. エネルギーと原材料の需給バランスの変化、価格の変動
4. 気候変動の緩和に対する企業の社会的責任の拡大
5. 気候変動の緩和に貢献する製品と技術を提供するためのより大きなビジネスチャンス
なお、これまでに特定したリスクと機会は以下の通りです。
気候変動が当社の事業活動に与えるリスクと緩和策 | ||
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製品 | リスク | 緩和策 |
1.炭素税や排出権取引制度の導入 | 当社グループの生産拠点があるEUですでに導入されている炭素税や排出権取引制度が、日本や米国の各州でも導入される可能性があります。 | G委員会による生産効率のさらなる向上や新しい生産技術の実用化によって、省エネルギー、温室効果ガスの排出削減を進めています。 |
2.降水の量や地域の変化 | 世界中で洪水や暴風雨が発生しています。一方、降水量の減少による干ばつや水不足が発生し、水の安定的な確保が必須の地域もあります。 当社グループは、洪水や暴風雨が多発しているアジアをはじめ、世界各地に生産拠点があります。各拠点では洪水対策を行っていますが、予想をはるかに上回る洪水や暴風雨が発生することも考えられます。いずれの場合も、生産設備の故障の復旧費用や、生産活動停止に伴う機会損失費用が必要となる可能性があります。 また、自然由来の原材料や、産地が偏っている原材料が調達できなくなる可能性もあります。 |
生産拠点や原材料調達先の複数化を進めています。また、過去の洪水実績をもとに、冠水リスクが低い場所に計器室などの重要な設備を設置するとともに、防水壁で囲っています。 そのような対策を実施した上で、事業継続のために必要な損害保険に加入しています。 また、生産活動で使用する水資源の保全のために、取水量の削減や水のリサイクル利用の徹底などに、積極的に取り組んでいます。 |
3.評判の低下 | 当社グループの温室効果ガス排出量は原単位では大幅に減少しています。しかし、事業拡大に伴って絶対量は増えていることへの懸念が示される可能性があります。 また、当社グループの製品が温室効果ガスの削減に貢献していることが理解されていない可能性もあります。 |
サステナビリティレポート、アニュアルレポートなどの開示資料や、経団連「チャレンジ・ゼロ」での事例紹介によって、当社グループの取り組みを多面的、積極的に開示しています。また、投資家と気候変動について積極的に対話しています。 |
気候変動が当社の事業活動に与える機会 | |
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要因 | 機会 |
1.規制強化による機会 |
自動車の燃費基準や電気製品などの省エネルギーを促進させる動きは、ますます強化されると考えられます。当社グループの製品は、当社の顧客での省エネルギーと最終製品における省エネルギーの性能向上に貢献しています。
例えば、レア・アースマグネットはハイブリッドカーや電気自動車のモーターや省エネエアコンのモーターに使用されています。シリコーン樹脂はLED照明のパッケージ材料として使用されています。 サステナビリティー環境に貢献する信越化学グループの製品と技術 さらに、半導体シリコンは家電や自動車のインバーター、情報通信機器に使用され、省エネルギーに大きく貢献しています。 |
2.気温の変化による機会 | 温室効果ガスの排出増によって平均気温の上昇や最高最低気温の変動がある中、自動車や家電材料などの省エネルギー製品の省エネルギーへの期待が増大することが考えられます。 例えば、各種モーターにレア・アースマグネット使用することにより、電力消費を抑えることができます。半導体シリコンは、エネルギー使用を管理する電子デバイスには欠かせません。 その他にも、塩化ビニル樹脂、シリコーンなど、当社の製品は様々な省エネルギー製品に使用、販売されています。 |
3.評判の向上 |
温室効果ガスの排出増によって平均気温の上昇や最高最低気温の変動がある中、健康で快適に過ごすための省エネルギー製品の評価が高まり、需要が増えています。樹脂窓用の塩化ビニル樹脂、LEDパッケージ材料用のシリコーン樹脂、ハイブリッドカーや電気自動車のモーターに使用されるレア・アースマグネットなど、当社の製品は様々な省エネルギー製品に使用されています。そのため、既存製品の販売増加や新規製品の拡販機会が拡大することにより、収益の増加が期待されます。 また、投資家が当社の省エネルギーへの貢献への理解を深めることにより、当社および当社株式への評価に繋がります。 |
- * ライフサイクルでの温室効果ガス排出量
製品やサービスの原料調達から廃棄・リサイクルに至るまでの、製品のライフサイクル全体を通した温室効果ガスの排出量