トップメッセージ

パンデミック、分断に向かう世界情勢、資源と原料の高騰などの大きな波が次々と押し寄せ、経営を取り巻く環境に不確実性が高まっています。しかし、当社グループはそれらを巧みに乗り超えながら成長を遂げています。「各事業をさらに強くすることで持続的な成長をめざす」、当社グループでは限りある人と時間を毎日の経営の執行と仕事に振り向け、正確な仕事を積み重ねることに傾注してきました。その成果が中長期的な成長に寄与していることは、業績の軌跡からご理解いただけると思います。また、当社グループは持続的な成長を図るとともに、サステナビリティという考えが普及する前から、半世紀にわたりサステナビリティを経営の重要な課題として実践してきました。

代表取締役社長斉藤 恭彦

Environmental:環境

当社グループでは環境に貢献する技術の研鑽に挑戦し、開発した新しい技術を工場に実装してきました。その代表例が当社の米国子会社であるシンテック社です。1974年に塩化ビニルの生産を開始した同社は、当初からこの方針を徹底し、環境への投資を継続的に行ってきました。また、誠意をもって地域社会と信頼関係を構築することに努め、政府や地域社会から、地域の発展に極めて協力的な企業として受け入れられています。徹底した環境対策と地域社会との良好な関係を背景として、シンテック社は増設投資を繰り返し、増加し続ける世界の塩ビの需要を着実に取り込むことで、世界一の塩ビメーカーへと成長を遂げました。全ての事業とグループ会社において同じ取り組みを実践しています。

当社グループは「2050年カーボンニュートラルに向けた計画」を策定し、今年の5月に公表しました。温室効果ガス排出量削減の方策として「電力の再生可能エネルギー化」を筆頭に「水素の活用」、「技術革新」、「CCUS*1」、「バイオマス燃料の活用」を進めていきます。原料とエネルギーを使って生産を行う素材メーカーにとり、カーボンニュートラルの達成は大きな挑戦です。しかし、過去30年にわたり当社の技術者は合理化、生産性の向上、そして技術革新への飽くなき挑戦を続け、生産量原単位当たりの温室効果ガス排出量を1990年実績に対して半減させるに至りました。今後とも、当社が培ってきた技術、課題を解決する力、困難な目標に挑戦する強い意志をもってカーボンニュートラルに取り組んでいきます。

さらに、当社グループの製品の多くは温室効果ガス排出量の削減に寄与し、環境負荷の抑制と持続可能な社会の実現に貢献しています。2021年6月に日本政府は「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を発表し、2050年カーボンニュートラルを目指す上で取り組みが不可欠な14分野を掲げました。当社グループのこの14分野向け製品の売上高は、いまや売上高全体の7割に達しています。お客様と社会の課題解決に資する製品の品揃えをさらに拡充し、持続的な社会の実現に向けて取り組んでいきます。

  • *1 CCUS:二酸化炭素回収・貯蔵・利用技術(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage)

Social:社会

事業を行う地域とともに発展していくことが当社グループの方針です。事業は雇用を生み、事業の成長は雇用を増やしその経済効果は地域に波及し、納税により国と地域の発展に貢献しています。

また、人権の尊重は当社グループの重要課題の一つです。世界各国の事業所で人を大切にする経営を徹底してきました。人権に関する国際規範*2の遵守はもとより、当社グループの人権方針を制定し、その方針に従って事業が行われていることを確認する調査も実施しています。さらに、人権への取り組みをサプライチェーンにも拡大し、2022年度は当社グループの一次サプライヤーの約7割を対象に、人権を含めたサステナビリティの取り組みの調査を行いました。今後も、人権尊重を基軸として経営を着実に推進していきます。

SDGsも当社グループの経営に包摂しており、投資の提案や新製品の開発には「SDGsが掲げるどの目標に貢献するか」の検討を要件としています。また、国連UNHCR協会が取り組む難民援助の活動には、2006年より従業員から難民を支援するための寄付を毎年実施しています。

  • *2 人権に関する国際規範:世界人権宣言、ILO国際労働基準、国連「ビジネスと人権に関する指導原則」、国連グローバル・コンパクト「グローバル・コンパクトの10原則」などを指す。

Governance:企業統治

企業統治に関しても当社は積極的に取り組んでいます。2001年、当時の代表取締役社長の金川千尋は「増収増益が続いているが社内の取締役では気づかないことがあり得る。社外の人に執行部の経営を厳しい目で見てもらい、率直な指摘をしてもらいたい」として、ダウ・ケミカル社(米国)の前会長兼CEOのフランク・ポポフ氏を社外取締役として招聘しました。その後も各界の第一人者を社外取締役として次々と招聘し、株主還元、投資、ESG、カーボンニュートラルなど多岐にわたって提言をいただいてきました。このように社外取締役の方々が役割を十二分に果たしていただくことで、当社グループの企業統治は着実に進化を遂げることができました。2023年6月より、取締役9名のうち5名が独立社外取締役(米国人1名、女性1名)、監査役4名のうち社外監査役が3名(女性2名)という体制です。国籍、性別、在任期間の多様性を備えた社外取締役と執行部からなる取締役会は持続的な成長に取り組んでまいります。

人的資本と知的財産

当社グループの成長の原動力は人です。仕事を通じて人は成長し、人の成長が会社の成長につながります。人材の育成ではOJTを基軸に、国際化、管理職研修、AIや法律などの学びのプログラムを用意して働く人の仕事力の向上と成長を力強く支援しています。また、世界21カ国で事業を展開する当社グループは、働く人の国籍、ジェンダー、専門分野の多様化を実現しています。

また、技術は当社グループの競争力の源です。技術を守ることは極めて重要な課題であり、この点でも厳密で実効性のある対策を長年にわたり進めています。当社グループの知的財産への取り組みに対しては、各特許アイデアの優位性と創出の継続性が評価され、外部の機関から12年連続で表彰されました。

リスクへの備え

事業にはリスクが伴い、世界情勢と経済の不確実性が高まる中でリスク管理はますます重要な経営課題となっています。当社グループはカントリーリスクを冷静に見極めながら投資を行い、原料の調達では地域とサプライヤーの分散化、幅広いお客様への販売を図ってきました。また、サイバーセキュリティ対策を継続して実施しています。これらの経営施策に加え、契約の締結、保険によるリスクの排除、法律や規制の順守とコンプライアンスの徹底などのリスクへの備えを実施することで、持続的な成長を下支えしています。

エッセンシャルサプライヤーとして

当社グループは、世界の人々の暮らしと産業を支えるエッセンシャルサプライヤーとして、当社グループの製品や技術が用いられれば用いられるほど持続可能な社会の実現への貢献になる――それが私たちの目指す「Shin-Etsu Everywhere」です。生活の質を高め、社会課題の解決に貢献する製品の提供を通じて、社会とともに持続可能な成長に向けて取り組んでいきます。

2023年1月、当社会長の金川千尋が逝去し、当社グループは大きな存在を失いました。私たちは金川経営を受け継ぎ、常に前を向き力強く歩んでいきます。 皆さまには、今後ともいっそうのご理解とご支援を賜りますよう、心よりお願い申し上げます。なお、当社グループが進めるサステナビリティの個々の活動内容につきましては、本報告書をご参照いただければ幸いです。

2023年6月

代表取締役社長 
斉藤 恭彦