高特性レア・アースマグネットの安定生産を目指して 高特性レア・アースマグネットの安定生産を目指して

素材は挑戦と失敗の積み重ねから生まれる

PROJECT

プロジェクト

Project Story 02

~高特性レア・アースマグネットの
安定生産を目指して~

お客さまから選ばれ
続けるために
私たちの
挑戦は続いていきます

お客さまから選ばれ続けるために私たちの挑戦は続いていきます。 お客さまから選ばれ続けるために私たちの挑戦は続いていきます。

マグネット生産技術部

K.F.

2007年入社 工学部工業化学科 材料化学専攻

Project 02

立ちはだかる、量産化のハードル。 立ちはだかる、量産化のハードル。

立ちはだかる
量産化のハードル

近年の省エネや脱炭素の要求の高まりにより、レア・アースマグネットの生産量はHEV*1やBEV*2などのエコカー用途を中心に増加している。
当社のレア・アースマグネットは、ユーザーから高い磁気特性を評価され、あらゆる産業に活用されている。しかし近年、競合他社も実力を上げてきており、当社のネオジム磁石の磁気特性に迫る製品も散見されるようになってきた。
信越化学が製品の性能で負けるわけにはいかない。常に競合他社の上を行く高特性ネオジム磁石を提供していくために、信越化学の特徴である工場・研究所・営業の三位一体のモノづくりの強みをより活かしていく必要があった。各部署のキーマンが招集され、プロジェクトが立ち上がる。
当時、磁性材料研究所に所属していたFが、プロジェクトチームを一気に活気づかせる発見をする。
「ネオジム磁石の耐熱性を高める粒界相改質という技術があるのですが、組成や製造プロセスを最適化することで、耐熱性とともに磁気特性を高めることが分かったのです。さらに希少なレアアースの使用量も減らせる可能性も見出しました」。
発見の喜びの後には、試練が待ち構えていた。粒界相改質磁石はラボスケールでは作製できたが、量産スケールでは安定的に生産できない問題に直面する。

*1 Hybrid Electric Vehicleの略
*2 Battery Electric Vehicleの略

解決へと導く、
ある元素と出会うまで

過去の経験から、粒界相改質磁石は組成や熱処理温度が少しでもズレがあると、狙った磁気特性が出ないという問題があることは明らかになっていた。さらに、すでに量産化されているネオジム磁石では何の問題もない範囲のズレであっても、今回は磁気特性が低下してしまう難しさがあった。
高い磁気特性を損なうことなく、どうすれば組成と熱処理温度の両方の幅を広げることができるか――研究員同士で過去のデータなどの情報共有を行いながら、効果が期待できそうな添加元素の候補を絞っていく。ラボスケールでのテストを繰り返すなかで、熱処理温度の幅を広げるために添加したある元素が、組成幅も広げる効果があることをついに突き止める。さっそく量産スケールでテストを行うと、ラボと同等の高い磁気特性が得られた。
成功に導いたのはチームワークだったと、Fは振り返る。
「同僚の研究者と協力しながら、変動する可能性のある組成や熱処理温度のパラメータの調査を行いました。また、磁性材料研究所とマグネット生産技術部がこれまで以上に緊密に連携をとることで、量産スケールでの試行と結果のフィードバック、課題の洗い出し、課題解決のための検討をスピーディに実施できたと思います。さらに、開発グレードの優先順位の決定などに活用するため、営業にはユーザーの高特性ネオジム磁石の需要状況を適宜、情報共有してもらいました」。

これまでの経験から、その先は。 これまでの経験から、その先は。

これまでの経験から
その先は

プロジェクトを通して、当社のネオジム磁石のラインナップに4つの新グレードが加わった。徐々に採用も決まってきており、その生産量も増えてきている。
「自分の研究成果から開発された製品がお客さまに評価され、そして世に出て省エネや脱炭素に貢献していると実感できることは非常にやりがいを感じています。また研究は基本的に一人で行うことが多いですが、それを製品化するには製造や営業など多くの人たちと関わりながら仕事を進めることになります。様々な視点の意見や考え方に触れる経験は、自分を成長させる糧になったと思います」。
現在は活躍の場を磁性材料研究所からマグネット生産技術部に移している。
「私の所属する部署は、生産性や品質、コストの改善、製造工程でのトラブル対策、新製品の製造スケールでの立ち上げなど、レア・アースマグネットの生産すべてに関わっています。粒界相改質磁石の開発に引き続き、次のフェーズの製造にも携われていることは、高いモチベーションにつながっています」。
今後も粒界相改質磁石の生産量は伸びていくことが予想されている。生産量が増えることで製造でのトラブルなども増え、また新たな課題が出てくる可能性がある。これからは研究所での開発で蓄積してきた知識を活かして、粒界相改質磁石の安定生産を目指していく。