世界市場参入に向けたシリコーン開発への挑戦 世界市場参入に向けたシリコーン開発への挑戦

素材は挑戦と失敗の積み重ねから生まれる

PROJECT

プロジェクト

Project Story 01

~世界市場参入に向けた
シリコーン開発への挑戦~

難題でも諦めない
その礎が信越化学
にはある

難題でも諦めない、その礎が信越化学にはある。 難題でも諦めない、その礎が信越化学にはある。

シリコーン電子材料技術研究所 第一部開発室

A.K.

2009年入社 高分子工学科 有機高分子物質専攻

Project 01

1つの発見から近づいた、世界の巨大な剝離紙市場。 1つの発見から近づいた、世界の巨大な剝離紙市場。

1つの発見から近づいた
世界の巨大な剥離紙市場

ラベルやシールなど粘着製品の台紙に代表される剥離紙は、表面に剥離紙用シリコーンを塗工することで作られる。幅広い用途があるシリコーンの中では、決して新しい領域ではない。粘着製品の性能を最大限に引き出すために、紙や粘着剤の種類によって適切なシリコーンを使用する必要があり、信越化学でも多種多様な製品が開発されてきた。粘着製品を保護し粘着面を綺麗に剥がすためにある剥離紙は、消耗品であり最終的に捨てられるため、剥離紙用シリコーンにも低コストが求められる。世界には大きな市場がある一方で、コスト要求に応えられず、信越化学は海外市場に参入しきれずにいた。
さらに、剥離紙用シリコーンは一般的に白金系の硬化触媒を使用しており、白金は高価かつ希少とされる金属。それ故、低白金化こそ他社との差別化に必須であり、当社でも長年切望されてきたテーマのひとつだったが、低白金化は非常に難易度が高く、膠着状況が続いていた。
そんな中、シリコーン電子材料技術研究所のKが所属するチームでは、白金の使用量の大幅な低減につながる発見をする。「ラボにおける反応性の評価方法が確立され、様々なスクリーニングが行われた結果、特定の構造に低白金化の顕著な効果があることが見出されたのです」。これをきっかけに、シリコーン自体に高い反応性を示す構造を導入するという、従来とは全く異なる発想に基づく「低白金反応硬化技術」の本格的な開発に着手。研究開発チームのほか営業・製造を巻き込み、三位一体の体制による一大プロジェクトが始まった。

難易度の高いテーマに、
三位一体で挑む

まずは初期サンプルをお客さまに提出し、その評価結果を元に改良を重ね続けた。しかし、開発を進めるなかで大きな難題に直面する。特定の構造を導入することで低白金化が可能な処方を見出したものの、他の物性が低下してしまうのだ。「その物性の低下自体は別の添加剤を加えることで解決できそうだと分かりました。しかし反応時のゲル化の抑制が非常に難しく、添加剤の合成は困難を極めました」。低白金化を叶えつつ、他物性を損なわない処方を見つけたい――。チームの研究員と共に、「低白金」と「他物性」を両立させ、どちらの性質も最大限に引き出せる添加剤の合成法を探っていく。さらに添加剤の配合の調整と評価を粘り強く繰り返し、ついに最適な合成処方と配合バランスの確立にたどり着いた。その過程では仲間の存在が大きかったとKは言う。「上司や同僚のメンバーとは沢山議論をし、試行錯誤を繰り返しました。信越化学には大学でシリコーン以外の研究をしていた人が多く、多様な人材から得られる情報やアドバイスは研究を進める上で大いに役立ちました。また、改良においては評価の正確なフィードバックが必要で、これは日ごろからお客さまと信頼関係を構築していた営業に助けられました」。
研究と並行して進めていた量産化の具体化も、製造部からの様々なアドバイスを受けてようやく目処が立ち、現在プロジェクトは最終段階を迎えている。

信越マインドで、未来を拓く“モノづくり”を。 信越マインドで、未来を拓く“モノづくり”を。

信越マインドで
未来を拓く
“モノづくり”を

薄利多売の剥離紙市場において、これまでは新規物質を合成した製品は単純にコストアップとみなされ、顧客には受け入れらなかった。しかし、長年の課題だった巨大な剥離紙市場に参入するための手掛かりをようやく手に入れることができた今、プロジェクトを振り返ってKはこう語った。「既存のシリコーンの構造を少し変えたことがひとつの突破口となりました。シリコーンは様々な用途に使用されるため、新しい用途や製品に焦点があたることが多いのですが、長年のテーマを諦めることなく取り組み続けた成果であったと思います。この課題が今回のような大きなプロジェクトにつながったことは、貴重な経験となりました。『今まで世の中になかったモノを作り出す』という研究開発の仕事に改めてやりがいを感じました」。
さらにKは、プロジェクトを通して信越化学の力を改めて実感したと語る。
「信越化学には、研究・営業・製造それぞれに、豊富な知識と経験、モノづくりに対する大きな情熱を持った人がたくさんいます。その人たちが集まって意見を出し合いながら開発を進めていくからこそ、業界を牽引するような製品を作り出せていると強く感じました。研究開発職はともすれば独りよがりの開発を進めがちです。より良いモノづくりを目指すためにも、営業や製造の立場や業務への想いを理解することができたこの経験を今後の研究開発に活かしていきたいと思っています」。
『本当に良いモノであれば、大きなうねりを作り出すことができる』という経験を糧に、Kはこれからも挑戦を続けていく。